広島高裁は、2004年7月9日、画歴史的な原告全面勝訴の判決を出した。
原告側は、事前に亡くなった原告2人の原告席への遺影の持ち込みを申請したが、裁判所は、異例なことであるが、これを許可した。
判決主文は、
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人らそれぞれに対し、各金550万円及びこれに対する平成10年2月10日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、第1,2審とも被控訴人の負担とする。
4 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。
とするものである。
補足すれば、
○ 1審に続き、事実認定を行い、強制連行及び強制労働を認めた。
○ 国際法違反に基づく損害賠償請求については、個人の請求規定はないとして認めなかった。
○ 不法行為に基づく損害賠償請求については、不法行為は認めたが、日本の民法を適用し、既に20年を経過しているとし、損害請求権は消滅したものとした。
○ 債務不履行(安全配慮義務違反)については、強制連行、強制労働の行為がそれに当たると認めた。しかし、被害者らの権利行使可能時期は、中華人民共和国公民出境管理法が施行された1986年とし、提訴した1998年では、既に12年が経過しているから、損害賠償請求権も時効により消滅したとした。
○ しかし、「消滅時効による利益を受けるには、当事者がこれを援用しなければならないところ、諸般の事情に照らし、当該権利を消滅させることが著しく正義・公平・条理等に反すると認めるべき特段の事情があり、かつ援用権を行使させないことによって時効制度の目的に著しく反する事情がない場合には、時効の援用は権利の濫用として許されないものと解するのが相当である。
本件強制連行及び強制労働はそれ自体著しい人権侵害であり、本件被害者らは重大な被害を受けたが、帰国後も強制労働時の事故による後遺症や疾病等に悩まされ、仕事にも就けず経済的困窮を強いられ、また、日本へ行ったというだけで反日感情の強い中国国内で迫害されるなど長期間にわたり様々な苦痛を強いられてきた。これらの事情に加え、情報収集の困難さから、権利行使は事実上著しく困難状況であったもので、本件被害者らは権利の上に眠ってきた者とはいえない。一方、被控訴人は、強制連行・強制労働に関する資料に虚偽の事実を記載し、広島県による調査の際も十分な調査をしないなど、控訴人らの情報不足の一因を作っており、反証の困難さも甘受すべきである。また、被控訴人は、控訴人らとの補償交渉において、態度を明確にしないまま交渉を続け、結果的に控訴人らの本件訴訟提起を遅らせるなどその姿勢は必ずしも誠実とはいえないものであった。さらに、被控訴人は、中国人労働者を使役したことに関し、戦後国家補償金を取得するなどの利益を得た上、その後も発展を続けてきた。
本件のこのような諸事情にかんがみ、被控訴人に損害賠償義務を免れさせることは、著しく正義に反し、条理に悖るというべきであり、被控訴人の時効の援用は、権利の濫用に当たり許されないものといわなければならない。」(原文のまま)
○ 「日中共同声明第5項には、中国国民の加害者に対する損害賠償請求権を放棄する旨明記されていない上、同国政府高官の発言もこの点一致していないことなどから、日中共同声明等により被控訴人の損害賠償請求権に応じる法律上の義務が消滅したものということはできない。」
○ 損害額は、被害者たちが被った経済的、肉体的及び精神的苦痛は筆舌に尽くしがたいとして、請求額を全面的に認めた。
しかしながら、西松建設は、その不誠実さをこれだけ裁判所から指弾されたにもかかわらず、恥じることもなく、同日午後最高裁へ、上告をした。